仕事で褒められるなら、なんて褒められるのが一番嬉しいですか。
って、私は取材のときよく聞くんですけど。どうですか。何が嬉しいですか。
ちなみに山縣自身はよく、わかりやすいとか、(取材の)話を広げるのが上手だとか、原稿を書くのが早いだとか、そんな感じのお褒めの言葉をいただくことが多いです。
これって、採用系の案件が多いと必然的にそうなるんですよね、正直。いや、ありがたいんです。ありがたいんですよ、褒めていただくのは。ただですね。採用の仕事って基本的に学生さんへ向けて全然知らない企業の全然知らない仕事を全然知らない人(先輩社員インタビューとかで)が喋ってるものなので、わかりやすくしないと話にならないんです。著名人じゃない、普通の仕事をしている人に取材するので、話はこちらが広げないとどうにもならないんです。書くのが早いのは……まあ、なんか早いんです。
そうすると褒めていただいても、「あ、はい……それが仕事なので」みたいな反応になっちゃうときがあるんですよね。いや、ありがたいんですよ。本当に。
そうなってくるとなんかもう、もっと無茶苦茶なこと言い出すような依頼とか、意味不明なポイントの褒めとか、欲しくなるじゃないですか。なるんですよ。
そんなときにいただいた依頼がこれです。「なんでもない新聞」。東京ガスパイプネットワークという、東京ガスのグループ会社でガスの配管整備などを主に行っている企業の採用リーフレットです。
ディレクターからのオーダーは、「なんでもないことを全部ニュースにしたいんです」でした。
何でもないことを…?ニュースに…?
なるほど〜全然わからんな〜と感じて、意味わからんままやっていいんだろうなと思って、無茶苦茶なこと書いたろと考えて、率直に言ってとても楽しかったですね。これだよ、私が求めていたのは。
こういう、さて何をすればいいんだろうかね、みたいなとき。ライターがやるべきは、できる限りもらっている情報に目を通して、お客様とディレクターが何をしたいのか読み取ることだと思います。大きなコンセプトと細かい情報の間を、こちらで埋めていくイメージですね。
このときは、「なんでもない1日は、何もしなければ生まれない。」という採用コンセプトがありました。それから、もらった台割は大半が「ニュースが入ります」というダミーコピーだったのですが、唯一、「茶柱立ちました」の見出しと、「ガスなき子」という連載小説のタイトル(新聞って下の方に連載小説あるよね)がありました。
つまり今回のお題は、「なんでもない1日は、何もしなければ生まれない。」と「茶柱」あるいは、「ガスなき子」の間を埋めていくのが私のミッションなわけです。逆に言えば、あとは好きにやっていい。
だから、普段「普通やろ」と思うことを全部ニュースにしました。なぜなら、その普通で当たり前に日常を支えるのが東京ガスパイプネットワークの仕事だから。なんでもないことって、本当はニュースで語られるくらい、とんでもなくすごいことだからです。日常って、すごいのよ。
3年ぶり2度目に茶柱が立ったこと。お風呂の温度にまつわる家族の論争は40度で合意したこと。職場ではふるさと納税の話題が当たり障りないわりに盛り上がること。努力したら試験に受かること。ラーメンとカレーはどっちも美味しいこと。
新聞らしく、占いや人生相談、天気、連載小説なども入れたいということだったので、埋め草小ネタ系のところもモリモリのものになったと思います。架空の連載小説も書いた。ちゃんと『ガスなき子』になったと思う。私は小説を書く才能はないけど、架空の連載小説の途中だけを即興で書く才能はあるなと思いました。今後どこで使えるのかは知らない。
書きたいように書いたので第1稿が本当にひどかったんですが(最終的には半分くらい書き直してかなり採用ツールとして使うにあたりマトモになってる)、ディレクター陣から「天才」「メチャクチャ」「何に使うのかわからない才能がある」みたいな言葉をいただけたので私の中ではオッケーです。
……なんの話でしたっけ? そうそう。何と褒められるのが嬉しいか、の話でした。
私にとっては、この「メチャクチャだろ!」みたいな反応が、意外と自分の中で言われて嬉しい褒め言葉なんだなと思ったんですよね、このとき。あんまり仕事の好き嫌いないと思っていたんですが、私はもっとわけのわからないものもやってみたいのかもしれない。とか。そういうことを思いました。
というわけで、即興で架空の話を瞬発力だけでガンガン書く仕事があれば、今後ぜひ思い出していただければと。そこはひとつ、どうぞなにとぞ。
……あ!採用サイトの職種紹介とかはちゃんと書いてます!そっちも見てね!
CL:Tokyo Gas Pipe Network Co., Ltd.
P/DIR/E/C/D/IL:PARADOX Inc.
Photo:Syuya Nakano
WR:Momo Yamagata